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通過領域/点の存在範囲の最難問 ~東大理系数学1988 第3問~

◆今日のテーマ ~1988年 東大理系数学第3問~

難関大入試数学で度々出題されるテーマに平面変換とか通過領域とか点の存在範囲とか呼ばれるものがあります。特に東京大学は何十年も前からよく出題します。

いわゆる頻出テーマの一つですが、その中でも史上最難問と名高いものの一つが1988年 東大理系数学の第3問です。今日はこれを解いてみます。

Cy=x^3-x,-1 \leqq x \leqq 1で与えられるxy平面上の図形とする. 次の条件をみたすxy平面上の点P全体の集合を図示せよ.
条件:「Cを平行移動した図形で, 点Pを通り, かつもとの図形Cとの共有点がただ1点であるようなものが,ちょうど3個存在する.」

◆問題読解

ありとあらゆる問題を解く上で大変に重要なことは問題の構造を把握することです。特に難問に於いては、これを意識して丁寧に行えるかどうかが命運を分けると言っても良いでしょう。(むしろコレさえ出来れば殆どの問題は定式化された処理によって解答可能とも言える。)

証明問題であれば、用いてよい事実(仮定)とこれから示すべき事実(結論)を把握すること、

求値問題*1であれば、求めるべき値の満たす性質(条件)を把握することが重要です。

今回の問題は求値問題に属します。求めるべきものはPの座標x,yの満たす関係式であり、それは「Cを平行移動した図形で, 点Pを通り, かつもとの図形Cとの共有点がただ1点であるようなものが,ちょうど3個存在する.」という条件から与えられます。これを意識しましょう。

◆解答計画

上の◆問題読解によれば、求めるべきものはPの座標x,yの満たす関係式であり、それは「Cを平行移動した図形で, 点Pを通り, かつもとの図形Cとの共有点がただ1点であるようなものが,ちょうど3個存在する.」という条件から与えられるのでした。

「ある点を通過する」図形(幾何的対象)の存在を論じるための最も良い手法はパラメータの存在にすり替えて議論することです。存在を議論したい対象を、適当なパラメータを用いて表現することで、図形の存在を数或いは数の組み合わせの存在へと帰着させます。まずは図形の方程式の一般形を求め、それが解を持つような(その図形に対応するパラメータが存在するような)条件を求めます。

この問題の場合はCを平行移動した図形」の存在を条件として用いますから、まずはこれをパラメータを用いて表現することになりますが、一筋縄では行かないのがこの問題で、「P(X,Y)を通過する」以外にも更に「Cと共有点を一つ持つ」という条件が存在します。

ここで混乱して解答不能になった受験者も多いのではないかと思います。このような場合は、Pの座標についての条件とそれ以外の条件を切り分けて、それぞれを別の段階で考えられるように問題を捉え直すと良いのです。

つまり本問の場合は、"Cを平行移動した図形"のP(X,Y)無関係な条件である、「Cと共有点を一つ持つ」と、直接P(X,Y)の座標に制限を与える「P(X,Y)を通過する」を切り分けて捉えるのです。

その結果として、一般にCを平行移動した図形全体をパラメータで表現するのではなく「Cを平行移動した図形のうち、Cと共有点を一つ持つ図形」をパラメータで表現するのだと認識を改められれば、問題の構造が本当に簡単なものに見えるのではないでしょうか。つまり、

1.「Cを平行移動した図形であり、かつCをただ一点の共有点を持つもの」をパラメータを用いて表現する

2.それらのうちP(X,Y)を通るものが3つ存在するようなX,Yの条件を求める

の二段階に分けて問題を解けば良いと分かります。後は迷うことはありません。

(このように問題の構造を丁寧に把握し、解答計画を立案することは、殊に難問に於いては大変に重要です。◆問題読解と◆解答計画の二つの項目は、難問を扱う場面に於いては、今後も様々な記事に登場するでしょう。)

◆解答

Cを平行移動した図形であり、かつCをただ一点の共有点を持つもの」をパラメータを用いて表現することを考える。

Cx軸方向にpy軸方向にqだけ平行移動した図形を

C_{(p,q)} : y-q=(x-p)^3 - (x-p) ~~(p-1 \leqq x \leqq p+1)

と表すとすると、これがCと共有点を唯一つ持つことは、

方程式x^3-x=(x-p)^3-(x-p)+q\left\{ \begin{array} -1 \leqq x \leqq 1 \\ p-1 \leqq x \leqq p+1 \end{array} \right. に解xをただ一つ持つことに等価である。*2

この方程式を整理すると-3px^2+3p^2x-p^3+p+q= 0 \cdots (\ast)となるから、以下、この左辺をf(x)と置き、(\ast)\left\{ \begin{array} -1 \leqq x \leqq 1 \\ p-1 \leqq x \leqq p+1 \end{array} \right. \cdots (\star)に実数解を唯一つ持つp,qの条件を考察する。また、f(x)=-3p(x-\dfrac{1}{2}p)^2-\dfrac{1}{4}p^3+p+qである。

 (i) \cdots p <-2のとき

   (\star)を満たすxは存在しない。

 (ii) \cdots 2 \leqq x < 0のとき

   (\star) \Leftrightarrow -1 \leqq x \leqq p+1である。y=f(x)のグラフの軸はx=\dfrac{1}{2}pであり、これは区間-1 \leqq x \leqq p+1の中央に位置する。従って、求める条件はf(\dfrac{1}{2}p)=0である。

 (iii) \cdots p=0のとき

   f(x)=qであり、これが\starに解を持つためにはq=0が必要であるが、このとき、解は任意のxとなり不適

 (iv) \cdots 0 < p \leqq 2のとき

   (\star) \Leftrightarrow p-1 \leqq x \leqq 1である。y=f(x)のグラフの軸はx=\dfrac{1}{2}pであり、これは区間p-1 \leqq x \leqq 1の中央に位置する。従って、求める条件はf(\dfrac{1}{2}p)=0である。

 (v) \cdots 2 < pのとき

   (\star)を満たすxは存在しない。

(i) ~ (v)から、\left\{ \begin{array} -2 \leqq p <0 , 0 < p \leqq 2 \\ -\dfrac{1}{4}p^3+p+q = 0 \end{array} \right. が「C_(p,q)Cと共有点を唯一つもつ」ことに必要十分である。

これらをC_(p,q)の式に反映させて整理すれば

Cを平行移動した図形であり、かつCをただ一点の共有点を持つもの」は、パラメータpを用いて

D_p : y=x^3-3px^2+3p^2x-\dfrac{3}{4}p^3-x

と表すことが出来る。これが点P(X,Y)~~(p-1 \leqq X \leqq p+1) *3を通過するとき、

Y=X^3-3pX^2+3p^2X-\dfrac{3}{4}p^3-X

すなわち

\dfrac{3}{4}p^3-3Xp^2+3X^2p-X^3+X+Y=0 \cdots (\circ)

の解が\left\{ \begin{array} -2 \leqq p <0 , 0\lt p \leqq 2 \\ X-1 \leqq p \leqq X+1 \end{array} \right. \cdots (\bullet)の範囲に存在し、その個数が条件を満たすD_pの個数に一致する。

したがって、Pを通過するD_pが3つ存在する条件は、方程式(\circ)(\bullet)を満たす相異なる解pを3つ持つ条件に等価である。以下はこれを考える。*4

(\circ)の左辺をg(p)と置くと、g'(p)=\dfrac{9}{4}p^2-6Xp+3X^2=\dfrac{3}{4}(3p-2X)(p-2X)

X=0のとき、g'(p)=\dfrac{9}{4}p^2 \geqq 0となり不適 (\because このとき(\circ)の実数解がただ一つとなる)

X\neq 0のとき、g(p)の増減は以下の表のようになる。

\begin{array}{c||ccccc}  p    & \cdots & \min \{ \dfrac{2}{3}X,2X\} & \cdots & \max \{ \dfrac{2}{3}X,2X \} & \cdots \\   \hline  g’(p) & + & 0 & – & 0 & + \\   \hline  g(p)  & \nearrow & 極大値 & \searrow & 極小値 & \nearrow\end{array}

 (I) \cdots 0 < Xのとき

   \dfrac{2}{3}X < 2Xである。(\bullet)より、「X-1<\dfrac{2}{3}Xかつ2X \lt X+1」、すなわちX<1が必要。 

   0 \lt X  \lt 1において、(\bullet) \Leftrightarrow \left\{ \begin{array}  pp \neq 0 \\ X-1 \leqq p \leqq X+1 \end{array} \right.

   であるから、結局、グラフが図のようなときに条件を満たす。

   f:id:love_me_agape:20180825232806j:plain:w300

   従って、\left\{  \begin{array} ~0 \lt X \lt 1 \\ g(X-1) \leqq 0 \\ g(X+1) \geqq 0 \\ g(2X)<0 \\ g(\dfrac{2}{3}X)>0 \\ g(0) \neq 0 \end{array} \right.が求める条件である。

 (II) \cdots X < 0のとき

   (I)のときと同様に考えれば-1\lt X\lt 0が必要であり、グラフが図のようなときに条件を満たす。

   f:id:love_me_agape:20180825232815j:plain:w300

   従って、\left\{  \begin{array} ~-1 \lt X \lt 0 \\ g(X-1) \leqq 0 \\ g(X+1) \geqq 0 \\ g(2X)>0 \\ g(\dfrac{2}{3}X)<0 \\ g(0) \neq 0 \end{array} \right.が求める条件である。

また、g(X-1),g(X+1),g(\dfrac{2}{3}X),g(2X),g(0)をそれぞれ計算すると

\begin{eqnarray} g(X-1)&=&\dfrac{3}{4}(X-1)^3-3X(X-1)^2+3X^2(X-1)-X^3+X+Y  \\ &=&\dfrac{1}{4}(X-1)\{ 3(X-1)^2-12X(X-1)+12X^2-4X(X+1)\} +Y \\ &=& -\dfrac{1}{4}(X-1)(X+1)(X-3)+Y\end{eqnarray}

\begin{eqnarray} g(X+1)&=&\dfrac{3}{4}(X+1)^3-3X(X+1)^2+3X^2(X+1)-X^3+X+Y  \\ &=&\dfrac{1}{4}(X+1)\{ 3(X+1)^2-12X(X+1)+12X^2-4X(X-1)\} +Y \\ &=& -\dfrac{1}{4}(X+3)(X+1)(X-1)+Y\end{eqnarray}

\begin{eqnarray} g(\dfrac{2}{3}X) &=& \dfrac{2}{9}X^3-\dfrac{12}{9}X^3+2X^3-X^3+X+Y \\ &=& -\dfrac{1}{9}X^3+X+Y \end{eqnarray}

\begin{eqnarray} g(2X) &=& 6X^3-12X^3+6X^3-X^3+X+Y \\ &=& -X^3+X+Y \end{eqnarray}

g(0)=-X^3+X+Y

であるから、これらを踏まえれば、P(X,Y)の満たすべき条件は、

\left\{ \begin{array} ~0 \lt X \lt 1 \\ Y > \dfrac{1}{9}X^3-X \\ Y \lt X^3-X \\  Y \geqq \dfrac{1}{4}(X+3)(X+1)(X-1) \\ Y \leqq \dfrac{1}{4}(X-1)(X+1)(X-3)  \end{array} \right.または\left\{ \begin{array} ~-1 \lt X \lt 0 \\ Y < \dfrac{1}{9}X^3-X \\ Y > X^3-X \\  Y \geqq \dfrac{1}{4}(X+3)(X+1)(X-1) \\ Y \leqq \dfrac{1}{4}(X-1)(X+1)(X-3)  \end{array} \right.

図示すると以下のようになる。

f:id:love_me_agape:20180826033320j:plain:w600
 
境界はy=\dfrac{1}{4}(x+1)(x-1)(x-3),y=\dfrac{1}{4}(x+3)(x+1)(x-1)のみ含む。ただし点(\pm1,0),(\pm \dfrac{3}{5}, \mp \dfrac{72}{125})は除く。

◆総評

流石にこの類の問題で史上最難と呼ばれるだけあり、流石に骨が折れました。

本問の珍しいところは、三次方程式の解の配置を扱うところです。◆解答計画で少し言及したように、方程式の解の配置の問題へ帰着させる方法は逆像法と呼ばれるもので、平面変換の問題の定石として広く知られています。本問でもそれを採ったわけですが、多くの問題は二次方程式の解の配置へ帰着できるのに対し、本問では扱う図形が三次関数のグラフ*5であり、式が高次になってしまうために、三次方程式の解の配置の問題を解くことになります。二次方程式の解の配置問題を本当に理解していれば、殆ど同様の考えによって解くことが出来ますが、理解が曖昧だとここで詰まってしまうかもしれません。

*1:値やその範囲を求める問題のことをこのように呼ぶことがあるようなので僕もそう呼んでいます。ただし、この語が数学書で用いられた例を知らないので、由緒正しい語彙ではないように思えます。いずれにせよ、あまり一般的でない表現なのは確かです。

*2:あまり意識されませんが、\left\{ \begin{array}  \\ \end{array} \right.は、同時に成り立つ、すなわち"かつ"の関係である複数の条件を表記するときに使います。\left\{ \begin{array} -1 \leqq x \leqq 1 \\ p-1 \leqq x \leqq p+1 \end{array} \right. なら、「-1 \leqq x \leqq 1であり、しかもp-1 \leqq x \leqq p+1であるようなxの範囲」を表すことになります。これはpの値によって変化しますから、場合分けが必要です。

*3:Pのx座標は何でも良いわけではありません。D_pp-1 \leqq x \leqq p+1の範囲にしか存在しない図形ですから、Pもこの範囲の点でなければなりません。この条件は割と忘れがちだと思います。

*4:少し前の議論において、xの範囲がpによって変化するため、pの値で場合分けを行いました。今回も同様で、pの範囲がXによって変化するため、Xの値で場合分けを行います。

*5:英語ではこの図形をcubic parabolaとか呼びます。この訳語は三次放物線ですが、別に物体の投射軌道には関係がないのでこの呼び名は僕は使わないことにしています。